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バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

バックパッカーの旅Ⅰ(東京~アテネ)

≪イラン≫嫌なイラン人

                     ≪九月二十九日≫      ―爾―

   ついに、イランの土を踏む。
 ゲートをくぐり、左へ行くとカスタム・オフィスがある。
 イエロー・カードのチェックを済ませて、また別の建物へ誘導される。
 今度は、パスポートのチェックが待っていた。

   毛唐ばかりだが、三四十人はいるだろうか。
 旅行者でごった返している。
 オフィスの中には、ちゃんとしたスチールの机が、いくつも並べられていて、制服を着込んだ係官が四五人、旅行者達を睨みつけているのが見える。

   毛唐たちのパスポートの上に、俺のパスポートを重ねて置く。
 目の前にいる、太ったおっさんが担当のはずなのだが、一向にパスポートを見ようとしない。
 日本で見る、ハエタタキを手にもって、目の前の蝿を追い掛け回わすのに忙しそうだ。

   我々旅行者は、早くしてくれと、ジーッと蝿を追いかけている、太ったおっさんの動きを追いかける。
 その俺達の視線に気がついても、知らん顔でまた蝿を追っ払う行為を止めようとしない。
 蝿のおかげで、30分も待たされてしまった。

   オフィスに呼ばれて、二三の質問をされて、それに答えると、パスポートに入国スタンプを押して終った。
 そのパスポートを手に持って、ManeyChangeに向かう。
 銀行のレートは、一㌦≒70.5リアル。
 闇屋よりずっと良いレートだ。

   ManeyChangeHouseの横のカウンターで、今度は荷物の検査が待ち受けている。
 係官の前に荷物を置くと、なにやら用紙を持って来て一言。

       係官「君のボールペンを貸してくれんかね。」
       俺 「俺の?」
       係官「ああ、そうだ。」
       俺 「返してくれよ!」
       係官「ああ、もちろん。」

   おっさん、自分のボールペンは胸にさしたまま使おうとせず、貸してやったボールペンで、何やら質問しながら用紙に書き込んでいく。
 荷物の検査は、半分ほど外へ出した所で”OK!”が出た。
 ところが、それからがイラン人。
 ボールペンを返そうとしないのだ。

       俺 「おっさん!俺のボールペンを変えさんかい!」
       係官「何だ、これくらい良いじゃあないか。」
       俺 「返せって言うんだよ!」

   しぶしぶボールペンを返してきた。
 この税関では、日本人はくれたのだろうが、俺はそういうわけにはいかないんだ。
 何年か前には、ずいぶんと賄賂が横行したようだが、今回はそういう事もなく無事に通過する事が出来た。

   それでも、珍しいものには、何でも質問してくる。
       係官「これは何だ?」
   女友達に貰った、鏡付きの丸いコンパクトを見て言う。
       俺 「コンパクトだ。」
   化粧するしぐさをして見せる。
 今度は電気剃刀を見つけた。
       係官「これは、何だ!?」
       俺 「エレクトリック・カミソリだ。」
   髭をそる真似をしてみせる。
       係官「オー!ベリーグッド!」
   オーバーアクションでほざきやがる。
 やはり日本製品には、少なからず興味があるようだ。
 上手く行けば、貰えると踏んでいるのかも知れない。

   もうひとつ、後になって困った事にManeyChangeがある。
 100リアル札と言う大きな紙幣しか交換してくれないのだ。
 100リアル札を、小さなお金に代えてくれと言うと、小さいお金はないというではないか。
 渋々大きな札だけで両替を済ませるのだが、・・・これが、後になってとんでもない事に遭遇する事になる。
 こいつら、グルなのだ。

                       *

   全ての検査が終わり、出口のゲートへ向かう。
 ゲートで、もう一度パスポートのチェックを受けて、やっとの思いでカスタムから解放された。
 カスタムを出るとすぐ、ドイツ製の大型バスが、我々を待っていた。

      ”イランまで行けば、後は快適なバスになるから・・・・。”

   そう聞いていた通り素晴らしいバスだ。
 やっと文明社会に出会うことが出来た。
 やれやれと言う安心感がこみ上げて来た。
 しかし、これが人間不信に出会う扉だったとは、そのとき誰も思わなかった。

   早速、バスチケット(100リアル≒400円)を買って、荷物を屋根の上ではなく、バスの腹の中にしまって、出発の時刻を聞く。
       おじさん「午後一時だ。あそこで飯でも食ってきな!」
 切符を売っているおじさんに言われるまま、出発までにまだ一時間あるので、歩いて五分くらいの所にあるレストランに入った。

   毛唐も何人か後ろからやってきた。
 立派な建物で、内装も素晴らしい。
 周りは半砂漠の大平原。
 何にもない、こんなボーダーに不釣合いなほど、立派なレストランだ。
 立派なのが、建物だけと言う事がこの後すぐわかる事になるとは、そのとき分るはずもなかった。

   周りは、カスタムの職員の住宅以外、何も見えない大平原が360度続いている。
 だとしたら、このレストラン、旅行者しか使用しないレストラン?
 中に入って、コーヒーを注文する。
 毛唐なども食事を始めた。
 店とのトラブルが起こったのは、気持ちよくコーヒーを飲んだ直後だった。

       俺「いくら?」

   100リアル札を出す。

       店「つり銭がない。」
       俺「お釣り・・頂戴。」
       店「ない。」
       俺「じゃあ、両替してきなよ。」
       店「ない。」
       俺「ボーダー・バンクでは、スモール・チェンジと言ってもしてくれんなかったんだから、あんたが両替してきなよ。」
       店「ない。」

   毛唐もほとんど100リアル札しか持っていない。
 皆がみんなそうなので、毛唐たちも俺の大きな声で、一緒になって怒り出した。

       毛唐「ここはレストランだろ!つり銭を出すのは当然の仕事だろう!俺達は大きな札束を出しているわけじゃない。100リアル札だぞ。それでもつり銭がないというのか!!!」
       俺 「You should be go to the ”カスタム”,with me!」
       店 「NO!」

   100メートルばかり離れているカスタムに連れて行こうとするが、まるで行こうとしない。
 イラン人は腰に銃を持っているのが見えた。
 そんなことで、1時レストランは騒然となる。
 店側は断固として、つり銭を用意しようとしない。

   一緒に来たイタリア人三人が提案を持ち出してきた。

       イタリア人「我々が少しだが、小さなお金を持っているから、それで払っておくよ。後でまた清算しましょう。」
       俺    「そうしてくれますか?」
       毛唐   「それで良いですよ。」

   トラブルを避けたがる日本人観光客なら、”お釣りは良いよ!”と言って来たに違いない。
 それにあじをしめたイラン人が考えた事なのだろうが、本当に腹が立つ出来事だった。
 これも日本人の悪しき慣習だろう。

   我々旅行者達は、この行為を絶対許してはいけない。
 後から来る旅行者達のためにも。
 こうしたイラン人の”ズルがしこさ”、”いやらしさ!”はこの国を抜けるまで続く。
 ある旅行者の言葉がここにある。

   ”こんな国は駆け抜けるに限るさ!国の内情が少々悪くても、汚くても我慢できるけど、その国の人の悪さだけは、旅行する者にとって一番嫌な事だし、疲れるのだ。嫌な旅に遭遇するってこの事だよね!”

   これも、昔のペルシャ帝国の亡霊だろうか。
 石油による成金がイラン人を変えてしまったのだろうか。
 どちらも・・・言える?
 人間に大金を掴ませると、その人の人間性がわかると言うが、イラン人はまさにその大金を掴んでしまい、今その人間性が問われている時かも知れない。
 我々日本人も、気をつけたほうがいいだろう。


             ≪イランの国情≫

         ―政治は、今の時点で・・・立憲君主制(これも五年くらいしか持たなかった。)で、パーレビ国王は「イランはペルシャであり、アラブではない!」と言うように、中近東の雄たる所を見せています。そして、アメリカと深い関係にあるため、隣の社会主義路線を行くイラクとは大変仲が悪く、しょっちゅう喧嘩を(戦い)しています。また、国内的には最近、極左派によるテロが活発化してきて、国内の不安の種になっているのです。
         経済面では、イランは石油がかなりの量出るため、オイルショック以来莫大な収益をあげて、国は大変潤っています。しかし、オイルの恩恵を直接受けているのは、一部の都市生活者だけで、庶民の生活は・・・懐は、それほど豊かとはいえないのです。そして、酷い物価高で路銀の心細くなった旅人達は、早々とトルコに抜けるよう進言します。―


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